石灰・苦土石灰(土を再生させよう)



 家庭菜園において必ずといってよいほどお世話になるのが消石灰や苦土石灰といった土壌改良材です。これらは共にカルシウム分を主成分とする強アルカリ性の鉱物で、その特性から土の中和や消毒といった土壌改良や土の再生に欠かせない素材となっています。本ページではこの石灰と苦土石灰についてその違いや特徴、撒き方などについてご説明していきます。


苦土石灰と消石灰の違い


石灰 苦土石灰 家庭菜園 家庭菜園で用いられる石灰は消石灰といい、これは大昔に生息していたサンゴや貝の殻が長い年月をかけ堆積して形成された石灰岩を加熱し出来た生石灰に今度は水を与え反応させたものです。主成分は水酸化カルシウムで強いアルカリ性となっています。
 また苦土石灰(読み方は「くどせっかい」)は石灰岩の一部が海水中のマグネシウムで置き換わって生成された「ドロマイト」と呼ばれる鉱物を焙焼してつくったもので、消石灰同様アルカリ性ですが植物には必須の葉緑素の材料となる「苦土=マグネシウム」を含んでいる為、家庭菜園ではよく使われています。

 特徴としては苦土石灰と比べ消石灰の方がアルカリ性が強い為、苦土石灰の半分程度の少量で土を中和することができ、消毒効果も期待できます。
 一方苦土石灰は消毒や中和の効果は消石灰より若干劣るものの、上述してあるとおり肥料成分であるマグネシウムを含んでいる為、野菜の苗や種を植え付ける直前の土壌改良時に多く用いられています。
 特に前年度育てた野菜の葉が黄色く変色していたら、マグネシウムが不足している可能性があるので苦土石灰を使用した方がよいでしょう。



畑に蒔く石灰(苦土石灰)の量・撒き方


 年間を通じて雨量の多い日本では雨により地中のカルシウムが流出し、土が酸性になっています。一方で多くの野菜は中性から弱酸性を好みますので、ここでアルカリ性の石灰や苦土石灰を土に混ぜ中和する作業が必要となってきます。
 植物は酸性土ではリン酸の吸収が阻害されたり根が傷んでしまったりしますが、アルカリ土ではマグネシウムや鉄の吸収が阻害され光合成ができなく弱ってしまいます。一般的には酸性よりもアルカリ性の方が植物にとって有害で被害は甚大ですので石灰や苦土石灰の蒔きすぎには十分気をつけなくてはなりません。


石灰の量(野菜のph)

 土の中和は厳密には市販の判定キットを購入し、土の酸性土を測定することから始まり、植える野菜にもよりますが一般的にpHが6.0を下回った場合は石灰の投入が必要となります。pHは7.0が中性で7.0より数値が少ないと酸性ということになりますが、逆にpH7.0を超え、土がアルカリ性に傾いてしまっても一般的な野菜の育成に支障をきたすようになります。

 またpH値を1.0アルカリ性に近づけるには1uあたり苦土石灰で100g、消石灰で60gが必要となります(この数値はあくまでも目安であり、その土地の土質、耕す深さなどによって異なってきます)。いちいち重さを計るのは面倒だという方は苦土石灰の比重が1.0で消石灰が0.5ですから、家庭用の計量カップ(200mg)満杯にすれば苦土石灰が200g、消石灰が100gとなります。なお前述の比重は粉末の場合の数字で粒状の場合はまた異なってきます。いずれにせよ皆さんが購入した石灰を缶詰の空き缶や小型のペットボトル、計量カップなどに入れ一杯分の重さを計って覚えておけば使用する際にわざわざ計量する手間が省けます。
 さてここまで聞くと石灰の量はかなり難しいようにも感じますが、日本の土はほぼ間違いなく酸性土となっていますので苦土石灰の場合、1uあたり手のひら2握り程度を蒔いて(地面がうっすらと白くなる程度)耕しておけばまず大丈夫です。それほど神経質になる必要はありません。
 ただしほうれん草やネギ類といった酸性に特に弱い野菜を育てる場合は所定のpH値になるよう、かつ石灰を蒔きすぎてアルカリ性にならないようしっかりと管理するようにして下さい。
 参考までに以下に主な野菜に適した酸性値をご紹介しておきます。


@ 酸性に強い(pH5.0〜5.5) 
 スイカ・ジャガイモ里芋サツマイモオクラ

A 酸性にやや強い(pH5.5〜6.0)
 トマトナスにんじんキュウリ大根トウモロコシ・カブ・カボチャ

B 酸性にやや弱い(pH6.0〜6.5)
 白菜キャベツ・レタス・ニラピーマン トウガラシ

C 酸性に弱い(pH6.5〜7.0)
 インゲン・タマネギネギほうれん草


 日本の土の酸性度は荒れ地でpH5.0前後、毎年中和している畑でpH5.5前後(野菜の収穫が終わったシーズンオフの段階のpH)とされていますので、上記の@の野菜を植える場合は石灰の量は少なめもしくは蒔かなくでもまず問題ありません。A及びBの野菜の場合は前述してあるように年に1回1uあたり2握り程度の石灰を蒔いておけばOKです(pH値を6.0前後にするには0.5数値を上げなくてはならないので使用する苦土石灰は1uあたり50g前後となります))。Cの場合は石灰は1uあたり100g前後と多めに蒔くことになりますが、蒔きすぎてアルカリ性にならないように(pH7.0を超えないように)入念な石灰の管理が必要になります。ちなみに@の野菜をCの野菜に適したpH値の土で育てると病気や生育不良が発生しますし、逆もまた同様です。つまり同じ畝で育てるのは好ましくありません。

 下の写真は酸性土を好むオクラの苗をアルカリ性の土に植えて2週間ほど経過したもの。pH値が高すぎてオクラは光合成ができない為、全く成長せず逆に葉が萎れてしまってます。
家庭菜園 石灰 量

石灰を蒔いてすぐ植えるのは厳禁


 家庭菜園用の消石灰や苦土石灰は化学反応をおこさせて化学的に安定させた状態ではありますが、それでも植物の根に直接触れると根を傷めてしまうので、石灰を蒔くのは植え付けの2週間ほど前に行うのが理想です。石灰を蒔いた後にすぐ植えるのは厳禁です。
 また石灰は地中の窒素とも反応し、ガスの発生や窒素分の不足といった弊害を引き起こしますので、堆肥と石灰を同時に一緒に蒔くのも厳禁です。堆肥を混ぜるのは石灰を蒔いて最低でも2週間経過してから行うようにします。石灰、堆肥、植える時期のスケジュールは別途「土作り」のページでもご紹介していますので参考にしてみて下さい。



石灰の追肥

 石灰の追肥とはある雑誌で、野菜の葉に石灰もしくは石灰分を溶いた水溶液をふりかけたら元気になったという事例が紹介され、以来石灰による追肥が野菜の生長に効果があるのではないかとされている案件です。この石灰による追肥は専門家の間でも意見は分かれており確立された方法ではありませんので、もし実践する場合はあくまでも自己責任でお願います。
 まず石灰を蒔くことによる追肥の効果ですが、これは石灰のカルシウム分が補充されることとなり、収穫を控えた野菜には一定程度の効果はあるとされています。もう一つの効果は石灰の高アルカリ性の性質により病原菌が死滅しアブラムシやダニといった小さい固体にも一定程度の効果がある他、大きめの固体にも防虫効果が得られ、結果病害虫をいなくなり成長が促されるというものです。どちらかというと後者の方の効果の方が大きいのではないか?といわれていますが、石灰による追肥を行う際にはいくつかの注意点がありますので以下にご紹介します。


@野菜がある程度成長してから石灰をふりかける。
 これはまだ若い苗の状態の野菜の場合、直接石灰をふりかけると葉にも害を及ぼし葉焼けしてしまうことがあるからです。ある程度成長していると葉や茎に蝋成分が分泌され防護するようになるので、葉が真っ白になるまで石灰をふりかけても葉焼けをおこすようなことはなくなります。


A農薬と同時期に散布しない
 農薬散布と同時期に石灰を散布した場合に葉焼けをおこすことが度々報告されています。これは原因は不明ですが、多くの農薬が強い酸性であるのに対して石灰は強アルカリ性であることから化学反応をおこして野菜に悪影響を与えるのではないか?と推測されています。


B収穫間近の野菜には水溶液を
 石灰というのは一度野菜に付着すると一週間ほど付着したままになります。収穫間近の野菜にふりかけると石灰を洗い落とすという手間が生じますので、この場合は水溶液をふりかけます。なお水溶液は石灰が直接届きにくい葉のすき間などに潜んでいる病害虫を退治するときにも有効です。
 石灰の水溶液は石灰と水を1:3の割合で混ぜ、数日おいたのちその上澄みを吹きかけるとよいとされています。


石灰での消毒


 石灰は強アルカリ性である為、土壌消毒の効果も期待できます。ただし殺菌の効果はあっても殺虫の効果はほとんどありませんし、その消毒効果の期間も限定的です。
 石灰には強力な消毒効果があると思われている方もよく見受けられますが、これは鳥インフルエンザが発生した際の消毒に石灰が用いられている映像がよくテレビで放送されていることなどが影響していると推測されます。もし仮に鳥インフルエンザ消毒時のように大量の石灰を畑に蒔くと土はアルカリ性となり野菜栽培どころではなくなりますし、そもそも宿主から離れた鳥インフルエンザのウィルスは皆さんが思っているよりずっと脆弱かつひ弱で、畑に潜んでいる細菌やカビの胞子、宿主に潜んでいるウィルスらに比べるとまさに生まれたての赤子と健全な大人以上の差があるのです。
 もし皆さんの畑が前年度病害虫により大きな被害を受け、土壌消毒が必要と判断された場合は市販の消毒剤を使用することを強く勧めますが、以上のことを踏まえたうえで石灰を用いた効果的な消毒の方法をご紹介していきます。


収穫後

 野菜の収穫後、時期的には晩秋の初霜が降りるころになると思いますが、畑に残った野菜の根や茎葉を取り除いたうえで石灰を蒔き深さ30センチくらいまで耕して固まりを砕いておきます。こうすることで前年度発生した病害虫や雑草の繁殖を防ぐことができます。また根や茎葉の残渣は病害虫の温床となり連作障害の原因にもなるので、養分になるだろうと考え土に混ぜ込むのは危険です。



寒起こし

 真冬の農閑期に行う作業で、土を荒く耕し寒風にさらします。こうすることで地中に潜んでいた病害虫の卵や胞子が寒さによって死滅し土も凍結と乾燥を繰り返し団粒化がすすみます。



天地返し

 畑の土を入れ替える作業で、深さ30センチほどの表土とその下の30センチほどの土を入れ替えることで病害虫の発生を防ぎ、深く耕すことになるので根の生長も良くなります。天地返しを行う時期は休耕期で特に冬の寒い時期に行うと冬眠中の病害虫や卵、雑草の種などが寒風にさらされ死滅する効果が期待できます。



太陽熱を利用した消毒

 休耕期が夏の場合は太陽熱を利用した消毒が有効です。これは土に刈草、石灰窒素を混ぜたうえで、水をかけビニールをかぶせ蒸し風呂状態にする方法です。石灰窒素は当初は動植物に対する毒性を有していますが、一週間ほどで無害で肥料となるアンモニア性窒素に分解されます。