野菜の種まき・植え付け



 家庭菜園を楽しむにあたり、その年の作付けスケジュールを作成するのは大切な事であり、また楽しみでもあります。このスケジュール作成にあたっては野菜の種まきや収穫の時期を把握することは必須次項です。
 また種まき(もしくは植え付け)は野菜栽培における根幹部分であり、野菜栽培のプロである農家の方々の中には「その年の野菜の良し悪しは種まき(もしくは植え付け)で決まる」とおっしゃっている方もいるほどです。
 本ページではこれら種まきに関する諸々の基本をご紹介していきたいと思います。


野菜の種まきカレンダー


 まず最初に代表的な野菜の種まき時期を一覧表にした種まきカレンダーをご覧下さい。

種まきカレンダー



 こうして一覧表にしてみると、秋野菜の代表格である大根はキュウリや枝豆を収穫した後に植える事が可能ですが、同じ根菜類であるニンジンは時期が合わないことが分かります。
 またタマネギやニンニク等はキュウリや枝豆の他にトマトやナスの畑でも収穫を急げば植え付け可能ですが、収穫は翌年の初夏となる為に多くの春野菜は植える事が難しいことが分かります。
 スケジュールというものは頭の中で描いても混乱してしまうものですが、このように一覧表やカレンダーにしてしまうと一目瞭然で非常に便利です。
 なお上段の種まきカレンダーはトンネルなどは使わず、一般地で栽培を行った場合の目安です。あくまでも標準的な目安であり、その地域の気候や品種によって種まきや収穫の時期も1ヶ月ほど前後する場合もあります。ですから住んでいる地域にあった自分独自の一覧表、種まきカレンダーを作って、菜園計画を考えてみて下さい。


野菜と気温の関係


 前段の種植えカレンダーの項で「地域や気候によって植え付けや収穫の時期は1ヶ月ほど前後する」と記載しましたが、その大きな原因は「気温」です。桜で考えてみて下さい。東京周辺では毎年3月下旬に開花する桜は北東北地方では1ヶ月ほど遅れて4月下旬に開花します。紅葉も同様で約1ヶ月ほどのズレがあります。この主な理由は気温で野菜栽培でも桜や紅葉と同じく地域によって約1ヶ月のズレが発生するので。
 一般的に植物の成長は気温に左右されていますので、当然の事ながら野菜類の生育も気温によって大きく左右されてきます。
 ですから市販の種の袋に記載されている時期にあわせて種まきしても、その場所が山間地で冷涼な気温ですと、発芽しなかったり発芽してもなかなか成長しなかったりといった問題が発生します。
 この問題を解決するには家庭菜園を行う場所の気温・地温、そして育てる野菜の適正温度を把握する必要がありまが、気温や地温は温度計で知る事ができますし、最近では各自治体などで年間を通じた平均気温をネット上で公表してます。
 また各野菜の適正気温は野菜毎に異なってきますので代表的なものを以下にご紹介しておきます。


野菜栽培の適温

 野菜栽培における適正温度と自分の住む地域の月ごとの平均気温が分かれば、種まきや植え付け時における様々な改善点が分かってきます。例えば多くの野菜は夏に収穫する為には遅くとも6月中旬までには植え付けを終わらせておかなければなりませんが、皆さんの住む地域の6月における平均気温が20度に届かない場合、20度以上の温度を好むトウモロコシやナスなどはポリマルチビニールトンネルといった保温処置を行っておいた方が元気に成長し収穫量も多くなります。種まきについても適正温度に届かない場合はポットに種を蒔き、室内の暖かい場所で発芽させるといった対処が必要となってきます。
 現在栽培されているほとんどの野菜は原産地が外国であり、日本の気候とは異なる環境で進化してきました。そのような野菜達を日本の気候にあわせて成長させたり発芽させたりするわけですから色々矛盾も生じてくるわけです。言い換えればなるべくその野菜に適した環境をつくってあげるのが野菜作りを成功させる秘訣でもあるのです。


 なお参考までに昔から農家の方々の間で言われている格言をひとつご紹介いたします。それは

 「カッコウが鳴いたら種を蒔け」

 これはカッコウが鳴きはじめたら種を蒔いても良いという意味で、カッコウが鳴く頃は気温も大分暖かくなり遅霜の心配もないので昔から種まきの目安とされてきました。時期的には桜の花が散って2週間ほど経過した辺りとなります。皆さんも種まきのタイミングに迷ったら種まき鳥と呼ばれるカッコウの鳴き声を合図に畑に種を蒔いてみてはいかがでしょうか?



良い苗、良い種の選び方


 良い種から良い苗を育てることはそのまま良い野菜の収穫につながります。ですから本項では種や苗を選ぶ際の注意点やポイントをご紹介していきます。


その土地にあった品種を選ぶ

 いくら美味しいと有名な品種でも、皆さんが住んでいる土地の風土や気候にあわなければ上手く育ちません。その地方でよく栽培されている品種はその地方と相性の良い品種ですので特に初心者の方にはおすすめです。その一方で古くからその地方で育てられてきた伝統野菜と呼ばれる野菜は、はじめのうちは栽培を控えた方が無難です。その理由は「なぜ伝統野菜の出荷量が少ないのか?」と考えれば察しがつきます。
 昔ながらの伝統野菜は品種改良された現在の野菜に比べ、気温や日照不足といった気象条件にデリケートであったり、病害虫に弱かったりと育てるのが大変難しいからです。家庭菜園を始めたばかりの方にとっては少々荷の重い野菜なのです。


種や種芋は専門店でその年に

 家庭菜園をしていると自分の畑で収穫した
種を、また来年蒔いてみたいという思いによく駆られます。これはこれで家庭菜園の楽しみの1つであると思うのですが、注意しなければならない点がいくつかあります。


ハイブリッド種
 ハイブリッド種とは味覚の向上や病害虫に対する耐性を高める為に、異なる品種を掛け合わせて出来た種です。ハイブリッド種は地鶏や飼育下の動物などでも見られますが、その多くは生殖能力を失っていたり、繁殖しても代を重ねる毎に種としての能力が低下していく傾向にあります。野菜のハイブリッド種においても同様で、収穫した種を蒔いても発芽率が極端に低かったり、発芽して実が成っても初代に比べ味が劣っていたりといった不具合が生じます。ですから基本的には購入した種はその年に使い、来年の分はまた新たに購入するのが望ましいのです。
 なお代々同じ形質が受け継がれている種を固定種といい、固定種の場合はハイブリッド種のような障害は発生しませんので、収穫したらよく乾燥させ、食品保存用のジッパー付きパックなどに乾燥剤と共に冷蔵庫のような冷暗所で保管しておけば、来年「種」として使用することができます。



種芋類は専門店で
 ジャガイモニンニクといった根菜類を育てる場合、たまにスーパーなどで販売されているものを使用しようとする方を見受けますが、これはお勧めいたしません。
 理由としてはまずスーパーで販売されている根菜類は発芽しないように抑制処置が施されている場合があることと、病原菌やウィルスを宿している場合があること(人には無害です)があげられます。特に病原菌やウィルスに関しては保菌している種芋を植えると、その芋は発芽しても生育不良で収穫は望めませんし、周辺の野菜にも被害が及びます。販売されている種芋はこのような事がないように厳重な管理の元栽培されていますし、なかにはジャガイモのように数年かけて安全な種芋を育て上げている場合もあります。種芋といってもさほど高価なものではありません、リスクを考えると専門店でちゃんとした種芋を購入することを強くお勧めします。



良い苗とは
 一般的に言われている良い苗とは病害虫に犯されてなく茎が太く葉の勢いの良いものとされていますが、購入してから枯れてしまってもそれは自己責任ですので、やはり色々な野菜を見て育て、野菜に関する鑑識眼を高めるのが一番です。
 だた野菜によっては本葉が2〜3枚程度とか第一花が開花し始めた頃、といった苗を植えるベストなタイミングがありますので、このタイミングの合った成長度合いの苗を選ぶのも大切な要素です。



種まき


 土作りを終え、良い種を購入したら次はいよいよ種まきです。種まきや植え付けは今後の収穫を左右するいわば家庭菜園における前半のメインイベントです。とはいえそれほど難しい事ではありませんので野菜作りを指導するさいによく用いられる用語を簡単にご説明しておきます。

種の撒き方


 上の図は種のまき方を分かりやすくマンガにしたものです。
 種まきの基本は「すじまき」になります。板などで畝に溝を設け種を蒔いていく方法です。
 「点まき」はビール瓶の底などを畝に押しつけまき穴を作りそこに種を蒔いていく方法です。1つの穴に数個の種を蒔き、後に間引きする場合に用いられます。「ばらまき」はその名の通り細かい種を畝にばらまき、その上に手やふるいを用いて覆土します。発芽して苗が混み合ってきたら間引きして調整します。
 種のまき方は以上3通りがあり、専門書や指導員の方々も「すじまき」「点まき」「ばらまき」で説明しますので、この3つは覚えておいて下さい。
 なお種の撒き方は各野菜によって異なってきますので、どの撒き方で種を蒔くのかは各野菜栽培のページをご参照下さい。



徒長(とちょう)

徒長 野菜  徒長とは植物が光りを求めて間延びしたように育つ事をいいます。人間でいうと痩せてガリガリの状態ですから植物にとっても決して好ましい状態ではありません。さらに問題なのは人間や動物は痩せてしまっても後からちゃんとご飯を食べれば健全な肉体にもどりますが、植物の場合は徒長をおこしてしまうとその部分は痩せた状態のまま成長していきますので成長阻害や倒伏といった実害が生じます。
 家庭菜園の現場ではポットに種まきした際に、よく徒長する場面がみられます。これは光の弱い室内で苗を育てた為に植物が光を求め徒長するもので、対策としては日が当たらない時間帯は日の当たる別な窓際に苗を移動させる、ポットに蒔いた種が発芽したらなるべく太陽の光の下で育てるようする、などがあります。
 また種苗店で枝豆の苗などを購入するさいもよく徒長した苗を見かけることがあるので注意して下さい。

※家の窓際で幼苗を育てていると日当たりは良いはずなのに徒長してしまうことがあります。これは窓際という高温になりやすい環境で(特に5月、6月は日差しが強いので想像以上に温度が上昇します)苗の生長が促されているのに対して光の量が足りないからです。網戸や光を通すレースのカーテンも日光を阻害してしまいますので、もし苗が徒長するようなら苗を日中だけでも外におくなど対策を講じた方がよいでしょう。



 下の写真の苗は皆徒長気味ですが、特に右側の苗は著しく徒長しています。苗を購入する際はこのような苗は購入しないように気をつけて下さい。
苗 野菜 徒長