米(稲)をバケツで育ててみよう



米 バケツ栽培 日本人にとってもっとも身近な作物であるお米。しかしそのお米を一般の家庭で育てている光景はあまり見たことがありません。その理由としては米の栽培には大量の水を必要とし管理に手間がかかることから、種苗店やホームセンターなどでは苗を取り扱っておらず、一般の家庭に流通しにくいことがあげられます。しかし米の栽培自体は意外と簡単で少々深めのバケツやプランター、少量であればペットボトルでも育てる事は可能ですし、小学生の教育現場でも米の栽培を行っている事もあります。
 皆さんも是非一度もっとも身近な作物である米の栽培にチャレンジしてみませんか?


種籾・苗の入手法表
 現在の米の苗や種籾は農家の方が自分達で管理したり、地域の農協が一括して栽培・管理しており、一般的な種苗店ホームセンター等で入手することはできません。この為、家庭で米を育てようとする場合はまず先に地元の農協もしくは知り合いの農家の方に相談して種籾を分けてもらう事から始まります。
 農協も地域によって取り扱いはバラバラで種籾や苗を分けてくれる所もあれば、断られる所もあります。皆さんが住んでいる近くの農協で取り扱っている場合は問題ないのですが、断られた場合は農協の総元締めであるJAグループで「バケツ稲作りセット」というものを取り扱ってますので、ご相談してみて下さい。なお農協や農家の方々はその年の栽培計画に基づいて稲の苗を育てています。分かりやすくいえば余分な苗は極力育てないようにしていますので、苗や種籾について相談するときはできるだけ早めに相談するようにしましょう。



米(稲) 栽培の注意点・コツ

・使用するバケツは深ければ深いほど良いのですが、10〜15gのバケツは適度な深さがあり持ち運びにも便利です。

・1番大切で重要な作業は育苗と中干しです。

・種籾から育てるのではなく、農協や農家から苗を購入したり分けてもらうことも検討してみましょう。

・害虫対策は人力でも可能ですが、病気対策には薬剤散布も検討してみましょう。


栽培暦・カレンダー


米の栽培暦 カレンダー

 米の栽培におけるおおまかな栽培暦・カレンダーは上記の通りとなります。あくまでも標準的な時期を示していますので、実際には皆さんが住んでいる地域の気候や育てる米の品種により時期は多少前後します。もし自宅の近所に田んぼがあるのであれば、その田んぼを観察して田植えや中干し、収穫の目安とすれば失敗する確率も低くなります。



芽出し〜田植え

塩水選
 比重1.13の塩水に(おおよその目安として水200ccの場合塩は塩20g。もしくは生卵を浮かべて頭がのぞく程度の塩水)種もみを入れ、浮かんだ米(粗悪な種籾)と沈んだ米(良質な種籾)とに選別します。
 浮かんだ種籾は土に蒔いてもほとんどの種は発芽しませんし、仮に発芽しても成長不良となる確率が高いので処分します。


消毒
 塩水選で選別した米は直ぐに真水で塩分を洗い流した後、薬剤に24時間ほど浸けて消毒します。消毒は種もみについている病原菌を殺し、いもち病や「イネばか苗病」など稲の病気を防ぐのが目的で、使用する薬剤はスミチオン乳剤(100倍希釈)、ヘルシードTフロアブル(200倍希釈)、ベンレート乳剤(200倍希釈)等がありますが、使用方法や希釈倍率は必ずご自身で確認して使用して下さい
 また種籾の消毒にはお湯による消毒方法もあります。60℃のお湯に10分間または58℃のお湯で15分間ほど浸すだけですが、厳密な温度管理が求められますし(温度が高いと発芽障害を起こし、低いと殺菌効果が薄れる)温度にムラが出ないよう均一に種籾を浸す必要があり、意外と難しいです。


浸種 (しんしゅ)
 浸種とは種籾を水に浸し発芽を促す作業です。浸種は種籾を消毒後、一度乾燥させてから行います。
 浸種の日数(発芽に要する日数)は水温×日数で決まり積算温度100度で発芽します。つまり水温が15度であれば7日間、水温が12度なら8日間が目安となるわけです。
 この為、水温が高ければ早く発芽するのですが、急激に吸水させるため、発芽ムラが出来やすくなるとされ、一般的には低温で10日ほどかけて発芽させるのが良いといわれています。


種まき〜育苗
 種籾が無事発芽したら、軽く乾燥させた後、育苗箱に蒔き苗を育てます。この時期の種籾は病気やカビに大変弱いので、育苗箱に入れる土は殺菌消毒したものや市販の培養土を使うようにしましょう。また育苗箱自体も事前に消毒しておくと安心です。
 種まきを終えたら育苗箱の温度を30〜32度ほどに保ち、暗所で一気に発芽させます。ここでもたもたと時間をかけてしまうとカビやばい菌に侵され大きな被害を被る事があります
 無事発芽したら2〜3日弱い光に当てて予備緑化を行い光に慣れさせた後に太陽光の元に置きます。これを緑化といいここまでで種まきから約1週間ほどの行程となりますが、苗の緑化が進んだら自然条件下に10日ほど置き稲を鍛えて硬化させます。硬化が完了したらいよいよ田植えとなります。

稲 バケツ栽培 種まき



田植えまでの日数について
 さてここまで塩水選から苗の硬化まで要する日数はおおよそで浸種(8日)+発芽(2日)+予備緑化(3日)+緑化(3日)+硬化(7日)と約23日となります。もし皆さんの住む地域で5月20日前後に田植えが行われているようであれば、最低でも4月末頃に芽出し作業に着手すればよい計算となりますが、実際には35日ほどかけて育苗するのが一般的です。硬化以降は育苗の状態で育てていても問題はありませんので、10日ほど余裕をもって作業に着手するようにしましょう。育苗の作業はベテランの農家の方でも1番緊張する作業といわれています。ましてや素人の皆さんが一発で成功させるのは至難の業かもしれません。仮に育苗に失敗した場合でも近所の農協や農家の方から販売してもらったり分けてもらう事もできる場合がありますのでそちらの方も調べておくと安心です。



田植え

 田植えはその米の品種や皆さんが住んでいる地域の気候などの諸条件によって異なってきますが、一般的には5月中旬から下旬にかけて行うのが一般的で、稲の目安は草丈が12〜15cm、本葉が3.5〜5枚ぐらいとなります。田植え時は苗を3〜5本ずつ束ね20p間隔で植えていきます。



土作り
 田植えを行う前に行っておかなくてはならないのが土作りです。田植えの時期が近づくと稲の育苗用の土がホームセンターなどで販売されており、そちらを利用すると間違いはないですが、自分で土作りを行う場合は黒土10gに対して化成肥料5グラムほど混ぜて土をつくります。稲が好むpH範囲は5〜6.5でさほど心配する事はないと思いますが、育苗時は若干酸性の方が生育がよいといわれています。



水管理

 田植えの後は、寒さから稲を守るために田んぼに深く水を入れます。とはいえ水深が深すぎると逆に枯れてしまうことがあるので、苗長の4分の3を目安に水を入れるようにします。1番理想なのは深水が必要とならないように、暖かい日が数日続く頃に田植えをし徐々に水かさを増していくことですが思うようにいかないのが天気です。気温20度以下や強風時は深水、暑い日は3cmほどの薄水管理とするようにしましょう。



追肥

 種まきから約8週間後、稲の分けつ前に一度稲の生育状況をチェックし追肥をするか否か判断します。もっとも農家でもない皆さんが生育状況をチェックするといっても、かなり難しいとは思いますが、もし近くに田んぼがあるようでしたら、そちらに植えてある稲と比べ、葉の色が薄いようなら肥料不足の可能性が高いので追肥を行い、逆に草丈が高いようでしたら成長が早まっていますので、水を抜き栄養分の吸収を阻害させます。また病気予防の薬剤もこの頃に行っておくと安心です。バケツ栽培の環境では害虫に対する薬剤は特に必要ないと思いますが、目に見えないカビや細菌が原因となって発生する病気は駆除しようがないので、気温が上昇しカビや細菌類が活性化する前に予防的に薬剤を散布しておきましょう。なお薬剤散布は稲の草丈が低い頃に行うと薬害が発生する場合がありますので、稲の成長度合いとも相談して判断しましょう。



分けつ

 夏が近づき気温が上昇するにつれ稲は分けつし密度を増していきます。分けつとは茎の根元から新しい茎が出ることで、1本の稲から5〜6本分けつします。もし一株5本稲を植えていたら、5本の稲が25〜30本まで増えるわけです。分けつが終わるといよいよ出穂です。なおこの頃からウンカやカメムシ、バッタといった害虫も発生してきますので見つけ次第こまめに駆除するようにしてして下さい。



中干し

 夏も本番となり分けつも終了した頃に一度バケツの水を抜いて中干しを行います。中干しは、土の中のガスを抜き、空気中の酸素を土中に取り入れることを目的とし、これにより根が丈夫に張り後々の米の収穫量にも影響してくる重要な作業です。
 中干しは7月下旬の土用丑の日前後を目安に行われ、期間は2〜5日ほど。土にヒビが入り地中に外の空気が出入りできるような環境にすることが1番のポイントとなりますので、バケツ栽培の場合は雨が直接当たらないようにバケツを移動させたり、雨よけの処置を施すようにして下さい。またバケツ栽培では一気に乾燥がすすんで稲が枯れてしまうこともよくあるので、中干し時は細心の注意を払い、稲の葉が針状に細くまるまったり、色が黄色く変色してきたら水分不足ですので直ちに中干しは終了し水を補給して下さい。中干し終了後しばらくは浅水管理とします。



いもち病

 中干しも無事終わり、8月に入る頃に心配なのが「いもち病」です。いもち病は昔から全世界中の人々を悩ませてきた厄介な病気です。いもち病は空中を舞う胞子により感染し夏の長雨時のように稲に水滴が8時間以上付着しているような状態で発生します。葉や稲穂といった各所を枯らせ、最悪の場合は稲を枯らしてしまう恐ろしい病気ですので、低温・多雨が続いた時は早めに薬剤を散布し予防、駆除に努めます。



穂肥

 そろそろお盆 というタイミングで軽く施す肥料を穂肥といいます。目的は稲の実である米を充実させること。ポイントは「多すぎず、早すぎず」。肥料を蒔くのが多すぎたり早すぎたりすると、穂ではなく葉茎に栄養が行ってしまい徒長してしまいます。出穂直前に軽く気持ち程度蒔いてあげましょう。
 また出穂以降はこまめに水を替えるようにし地中に空気を送るようにし、やがて開花し実が成り登熟期に入った頃に再度肥料を施します。



登熟期

稲の花  登熟期とは稲穂が開花・受粉しいよいよ私たちが食べる米へと成熟していく期間のことで、時期的には9月の頃となります。この頃は倒伏、台風、雀に対する対処が必要となってきます。バケツ栽培の環境では稲穂が成熟し重たくなると稲は倒伏しやすくなるので、支柱を立てて支えるようにします。この支柱は台風対策にもなりますし、支柱の上から雀対策用に網を被せておけば一石二鳥です。

落水・収穫

米の収穫  稲穂が成熟してきたらいよいよ収穫です。収穫の1週間ほど前から水を抜き乾燥させ登熟を完了させ、やっと収穫となります。落水、収穫の時期は、田植え同様その米の品種や皆さんが住んでいる地域の気候などの諸条件によって異なってきますし、稲の生育状況によっても左右されますが、大体10月上旬に行われています。刈り取った稲は10日ほど雨の当たらない場所で乾燥させやっと食べられるようになります。


収穫したお米を食べてみよう


 一般的な米の収穫量は1株辺り茶碗1杯分(150g)といわれています。米1合が350gですから、2株で米1合となるわけです。ただしこれはプロの農家の方が育てた場合の米の量ですから、一般の方々の場合は若干量が少なくなると思います。ちなみに5株無事に育てたとして約米2合(750g)ほど。店舗などに置かれてる精米機は10kg単位が主流ですから、ご自分で育てた米を食べるには少々手間がかかりますが、ご自分で籾から米にするのが1番ではないかと思います。


脱穀

 脱穀とは穂から籾を外す作業です。米のバケツ栽培では茶碗や割り箸といった一般家庭にあるものを使用して脱穀できます。いずれも穂を挟み込んで引っ張ると籾が外れます。


もみすり

 もみすりとは籾から籾殻を外して玄米にする作業です。すり鉢に籾をいれ軟式野球ボールのような弾力のあるものでこすると籾殻が外れます。外れた籾殻はうちわなどで扇いで吹き飛ばします。


精米

 精米とは玄米を白米にする作業です。玄米を瓶などに入れ、棒で突いて米糠と白米にします。米糠はふるいにかけて落とします。なおこの作業は少々時間がかかるので玄米の状態で食べてしまうのも一案です。


ペットボトルやプランター、バケツでの栽培


 前述してありますが、米栽培に使用するバケツやプランターは深ければ深いほど良いとされています。これは稲の活力の源が根であり、根が十分に張れるスペースがあるかないかにより収穫量が左右されるからです。ただ深いほど良いと言っても家庭栽培の環境では限度があるわけで、おおよその目安として深さ40p以上のバケツを使用するようにして下さい。大体1.5リッターのペットボトル1本分の深さとなります。またバケツが大きすぎると大雨や強風時の移動が困難となりますので、一般的には10〜15gのバケツがベストといわれています。
 プランターの場合も深さが40pあれば問題はないですが、水抜き用の穴がちゃんと止水できるような構造になっているものを選びましょう。またペットボトルの場合は面積が狭いので一株辺りの本数を少なくして植えるとよいでしょう(バケツ栽培で余った苗を植える方もよく見かけます)。